時代小説 雪しぐれ 25最終回

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25

光行は果たして時間に間に合うように帰れるのか。連絡はとる手段もない。もし帰ったとしても慌てて考える暇などない。

光行はきっと飛んでいくだろうと思われた。誰かに見られたらどう説明するのだろう。志乃は色々と考えを巡らせた。

警察にも言ったらまた嫌がられるかもしれないので相談もできない。

手紙を見てしまって、不要な心配は尽きないので少し後悔していた。

明日は久ぶりの休日で、おそらく今年最後の休日になっていた。色々と考え事をしていた時背後から「お義母さん!」

という声が聞こえた。自分の事を母と呼ぶのは誰?子供たちはそれぞれの用事で今はいない。

振り返ると、そこには次男の光輝が、心なしか笑っているようにも見えた。義母とは呼んだこともない光輝でもある。

志乃は驚いてすぐには返事ができなかった。そしてそばまで歩いてきて言った。

「ぼくこれから義母さん、とよぶよ。亡くなった母さんがもう生きかえることもないし。それにこれから仕事も一緒にするし、

ぼくだけでも呼ぶことにした」

志乃はとっさに答えもみつからなかったが、何がこの子を変えたのか。こんなに早く母と呼ばれるとは思ってはいなかった。

長男の光太も末っ子の光男も義母、とは呼ぶこともできないでいた。

光輝はいつか言わねば、とはおもっていた。何の心境の変化もなかったが、何かがふっきれたようだった。

志乃としてはとてもありがたい事であった。一人でもわかってくれている、という事が心強い。

「ありがとう!」という言葉がおもわずでた。

待てど暮らせど光行は帰ってこない。そういうわけで昼ごはんも喉にとおらない。やっと帰ったのは12時半。ギリギリであった。

「お帰りなさい。光行さん、大変!話があるので少し・・」

志乃は緊迫した様子で一部始終を話した。

「まず私はあやまらなければ・・」

「いきなりあやまるって?」

「はい、私は光行さん宛ての手紙をあけてしまいました。でもこれは見るからにあやしそうだったので、どうかそのことは後で

しかってください。決して悪気はありません」

と前置きして手紙を見せた。

「・・・・」

光行は無言であった。すぐに判断を迫られていて、吞気に昼食などする時間もなかった。

光行は男一生一代の決意をして行くことに決めた。

志乃は自分が原因でこのような事態になったことを、身の震えるような思いで耐えていた。

「心配はいらんよ。正々堂々と戦う! 本当の決戦の時がきたのかもしれない。散々苦しめられてきた。今度は負けられない」

志乃は警察には言わないで、きっと光行は反対するだろうと思い、その代り、光輝にはこっそり言っておいた。

陰ながらいざというときは助けてくれるだろう。

そんな間にも刻刻と差し迫る時刻。志乃はじっと考えこんでいる光行を見て涙があふれかけていた。

この人にもしか何かあったら・・自分のできることは限られている。光行は腹を決めて立ち上がった。

そして、着替えて田島の待つ池の近くの川まで小走りにいった。

いよいよ、二人がむきあった。光行はしっかりと無言の相手を見据えた。

少しくたびれた着物で独身の哀れさがにじむ。それにしても顔色もさえない。青白い顔はまるで病人のようだった。

断末魔の叫びなのか、病気でも患っているのか。酒でもあおってきたのか、妙に足元もゆれている。

光行は田島をにらみつけた。今までの色々を今日は必ず清算する、との強い気迫。

負けてたまるか、これ以上、何もさせない、という気迫のあらわれであった。

「よくきたな!」

かすれそうな声でさけび、大きな目を見開いて、いきなり突進してきた。光行は田島が何の武器を持っているかもわからないので

用心してさっとよけた。

田島はそのまま支えを失って、つんのめってその場にたおれこんでしまった。

「ん???」

なにかおかしい。彼はそんな簡単に倒れるのか。遠巻きに志乃と光輝がそれをみていた。

その時だった、どちらかが怪我をされても一番困る志乃が「やめてください! やめて」と叫びながら光行たちの元へ走っていった。

光行は起き上がらない田島に近寄った。

荒い息をしていて苦しそうだった。

「助けてくれ!」

果たし状まで書いて、呼びつけておいて、助けてくれ?とは何事とか。思った。

このまま放置していいのか。志乃は倒れている田島をやはり不思議そうに見ている。そんなに病に侵されているのに

なぜ光行をよんだのか。勝ち目のない闘いをわかっていてしたのか。

志乃もこのまま二人が戦って怪我でもされたら両方とも困るので倒れこんだ田島は病気ではないかと疑った。

このままの状態で放置すると、もしかして重い病気であれば死にいたるかもしれない。

「さっき光輝が来たような気がした。どこへいったのだろうすぐに呼んできてくれ、ついでにリアカーも借りてきてくれ」

光行はもしかして、このまま放置すると、面倒なことになるといけない、もしかして警察にしられると、自分が何も悪い事をしていないにも

かかわらず、調べられるかもしれない。それは困る。

志乃はすぐに光輝を追って、はしりだした。 曲がり角で光輝を見つけると大きな声でさけんだ。

「光輝さ~ん」

「えっ!」

何か聞こえたような気がして光輝は振り返った。

「何処へいくの?警察だけはやめてって、お父さんが言うのでいかないでね。それよりリヤカーがいるらしいわ」

「そうか・・・」

父の気持ちもわからないでもなかった。やはり警察はやめよう。知り合いでリアカーを借りることにした。

(よかった)とりあえず志乃から戦う前に相手が倒れた、という事を聞いてとりあえずほっとした光輝であった。

病院に運ばれた田島実は、かなり重い心臓の病と診断された。

身よりのない一人暮らし、けれどもこのままにしておいていいのか、光行は考えた、志乃もこの人には随分と悪い事を何度もされた。

しかし。謝るでもなく、弁償してくれるわけでもないのに、なぜ自分たちが面倒までみなければならないのか、二人は悩んだ末、

光行は決断した。

「たまたま倒れられたのでここへ連れてきただけ、私はこれでかえります」

と病院に告げてさっと帰宅した。

田島実に、被った被害は計り知れない。何も面倒まで見る義務まではないだろう。

帰宅後はあたりは真っ暗になっていて雪がちらちらしていた。そのうち降り出した雪は止まらないほどの勢いだった。

あの日も雪しぐれだった・・・志乃は何か切ない思いが胸にあふれてきた。

光行は無言で歩みをとめなかった。

「もうこれで終わりにしてほしい。私は何もしていないのに・・」

「重症といわれていたからあの人もしばらくは大変でしょう。自業自得ですよ」

「かわいそうな人、かもしれないが・・」

「そうですね」

二人はやっと田島実からは、もう嫌がらせはしないだろう、健康状態もかなりわるいようなので離れられそうだ。

そして出会ったときの雪しぐれの日をそれぞれ思いだしていた。

あの日、会えなかったら今ごろはどうなっていたことだろう。今の幸せはないかもしれない。

「ねえ、光行さん、遠い日だけど、・・・。いつか約束したことをおぼえている?」

「えっ、何を?約束したかなあ」

わざと、意地悪にきいてみた、まだ独身のころの約束はきっとおぼえてはいないだろう、しかもそんなに大事なことではなかった。

「もう遠い日のこと。そう出会って2回目くらいの時草笛をふいてくれたわ。もう一度聞かせて!あれから聞いたことがないんだもの」

甘えるような志乃しぐさをいとおしく思った。

「そんなこと言ったっけ? 今日は暗くなるからかえろう。またあしたにしよう」

草笛をふく光行の姿は明日みられるだろう。

細く鋭い稲妻のような旋律はきっと大きな未来に向かっていくだろう。

真っ白な大地に足跡を残して、二人は自宅にむかった。幸せの明日になるように祈りながら・・・。















皆様長い事読んでいただいてありがとうございます。間違った文字や、不備もあると思いますが、それもまたあとで見直します。

次も童話、小説を書きたいと思いますのでよろしければごらんください。

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