時代小説 雪しぐれ 24

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秋は早々とながれていく。まるで川の流れのように。あれから商売もやっと順調良く回り始めおちついてきた。

ふと気が付くとまた冬がめぐってきている。志乃は(また雪の季節がめぐってきた)と感慨深げだった。

落ち着いてきたので籍も入れ、簡単にご近所にもご挨拶をした。キクが病死だったので誰も文句をいわなかった。光行のこれからの

人生を考えると、皆は同情的でもあったので、志乃としてはまだ堪えられた。

そんな日々の中で、ある日のこと。見慣れない人が3人この家を訪れていた。

大事な話だという事で客間にとおした。志乃はとりあえず、お茶だけを運んだが、羽織袴の町役場の人らしい。従業員も

一体何の用事かといぶかった。光行も心あたりはなかったが、とにかくあわなけれなならない。

町役場,といえば良い話などないのでとりあえず、悪い話でないように祈るしかない。

一時間ばかりして、3人は帰った。志乃はすぐにでも聞きたかったのだかそうもいかなかった。やっと皆が仕事を終えて、

閉店になったころ誰もいないところで光行は話しだした。

それは、山を売ってほしい、ということだった。そして以外にも半強制的なもので光行の選択の余地はなかった。

それは国からのお達しで、日本中の鉄道を張り巡らすために(便利にするために)強制的に売ってほしいということなのだそうだ。

たとえ光行の先祖が売らないでほしいと聞き伝えているとしても、そういう事は通用しないのである。

丁度その場所が光行の所有している山間地にトンネルを掘る、という事業らしかった。親が自分の代で絶対売らないでくれ、と懇願

したとしても、光行は,仕事をしながらも考えた。

「志乃、こんなことを言うと誤解されそうだが、決して変な風にはとらないでほしい。山は売りたくはない、でもよーく考えたら

五人の子供を皆学校へやるのは大変だ。丁度商売も替えたところだし、、先が長い。山はそんなにお金もはいらんが・・・

半強制的だと聞くと、仕方がない、とも思う」

「私はよくわからないけれど、半強制的じゃ・・変に強がるともめるだけだしね。相手が国じゃあ、何もいえませんね」

とさりげなく賛成した。そしてこれからもまだしばらく続くであろう、子供たちの学費の事もある。

キクが亡くなってからは、商売も少し傾き始めていて、皆必死になって頑張っている時期だった。

光行はそれから急にいそがしくなった。その山の売買のために何度かはたちあわなければならなかった。

やっと肩の傷も癒えて、本格的に復帰が可能な時期だった。

そこに一通の手紙が来た。その日は他に用事ができて遠方のため帰れないかもしれないと、光行は言い残して行った。

その手紙に差出人の名前はなかった。宛名は光行であった。

(何の手紙だろう? 開けてはいけないかもしれないけど…)なぜかとても気になった。不審な予感もした。

もしかして急ぎの用事ならば・・・いややはり自分宛ではないからあけてはいけない・・・志乃は悩みながら仕事をしていた。

夕方になって仕事が終わるとまた気になりだした。とうとう、𠮟られてもいい、と思い開封することにした。

それはなんと・・・驚くべき人から驚くべき内容である。

「果たし状」相手はあの田島実である!

志乃は急いで次を読む。

「貴殿の近くの双子池につながる川までこられたし。 日時は十二月二十日 昼一時 全ての決着をつける。 田島実」

(・・・・?)



「ちきしょう!、俺の人生を滅茶苦茶にしやがって。この決着はつけてやる。折角の仕事まで奪われて、今年の暮はこせない。

あれから色々嫌がらせをしたが、ちっともこたえてないようだ。もう、どうにでもなれ!きっとうらみだけははらしてやる」

田島の決心は強いものだった。

思えば、光行に仕事を断られてからは、他の仕事もうまくいかなくなった。

毎日酒をあおり、酔っぱらってばかり、愚痴ばかりであった。いくら一人身とはいえ、貯金もすぐに底をついてしまった。

けれどももともとの性分もあり、仕返しは必ずしないときがすまない。これを黙っていたら自分は一生後悔する、とばかりに思い

果たし状を書いて光行にこさせようとう考えであった。

志乃にうらみがあっても、か弱い女に手はだせない。が、いくら思っても手も足もでないとわかりつつの行動であった。

もともと自分なんか相手にされないのは十分わかっていた。が、他に思うような女の人もいず、運も気力も、健康も尽き果てていた。

最近は酒の飲み過ぎで体の調子もよくはなかった。時々心臓はさすようないたみがあった。どうせもうじき命もない、

となげやりになっていた。

十二月二十日、といえば明日ではないか。光行は果たしてそれまでに帰って来ることができるのか。

また心配事が増えた。午後三時とあるが、もし帰ってきてもギリギリの時間だったら・・・まにあえばいいが。

続く