時代小説 雪しぐれ 23

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23
「えっ、もう帰る?」

茂は驚いて光男の顔を見つめた。つい先ほどまで、家へ帰るのが嫌だといっていた光男が・・さては夕べの両親の喧嘩がこたえたかな?と

思った。

「うん、やっぱり学校を卒業するまで我慢する。ぼくが嫌な事はお母さんの代わりに他人が家に来るってことだ。しかもそれが雇いの女だ。

こんな侮辱ってあるか?」

「えっ、雇いの女?あの人か?おとなしそうな美人の?」

「何が美人なもんか、あんなの一生母ってよべないよ」

茂はたまに来るので知っていた。

「そうか、でも母さんがいないと大変だと思うよ」

「自分が当事者になってみないとわからんよ」

茂はしかし光男が帰ることについてその方がよいとおもっていた。下駄屋の商売もしていて、いつも来られたり、夫婦喧嘩をみられ

るのも困るのだ。光男は授業がおわるとそのまま帰るといって二人は別れた。

「ありがとう~また~」

せっかくカバンに詰め込んだ下着などは不要になってしまった。それでバツも悪いのでこっそり裏から帰った。

光行の思惑通り、たった一晩で光男はかえってきて、皆をおどろかせた。

しかしバツが悪いのか、こっそり帰ったので皆はしらなかった。そんな光男にこっそりとおにぎりを作って、志乃はそっとおいた。

秋も深まると夕方の日の暮れ方は早い。庭のもみじも色づいて、寒さがしのびよる。

今日も仕事はやっとおわった。開店して2日目。順調よく売り上げもあった。志乃は今日からここに住むことになる。

今までの狭い部屋ではなく子供たちもゆったりとできる部屋をあてがってもらった。

志乃にとって、待っていた日でもある。あれから随分と月日はながれた。しかしあきらめの毎日ではなく今の現実の幸せの中にいた。

たった一つ光男の事だけが妙に気にかかるが、単純な子なのだ、悪気はない。またわかってくれるであろうと希望をつなぐ。

そんな志乃の後ろ姿をみながら、光行も感慨深げであった。

そして初めて家族になった皆が顔を合わせた。特別に取り寄せた家族の祝い膳と祝い酒であった。

結婚式は今できない。商売を始めたところだったし、軌道に乗るまでは大変だからだ。

「さあ、今日から皆家族だ、仲良くたのむよ。誰が何といおうとこれからは家族だから」

光行の息子3人と、志乃の息子2人、光行は5人の父になってしまった。

「勝くん、剛士くん私の事をいまさら父さんと呼ぶのもなんだから好きなようによんでくれ。光太、光輝、光男、もよろしくたのむよ。

今日から新しいお母さんだ。困ったことは誰にでも相談してほしい。そしてお母さんを助けてあげてほしい」

五人は黙ってきいていた。皆の思いはきっと複雑にちがいない。感じやすい年齢だから。満足には思ってなくても、

避けては通れない道でもあった。

光男は、割り切って決心していた。たとえ継母がこようとも自分は自分でやっていこう、何もたよらなくてもいいのだ。

志乃は毛嫌いされても、このいばらの道を進んでいかなければならない。

勝も剛士も不安はかくせなかった、が、母の気持ちを思うと無碍な態度はこれ以上かわいそうだとおもっていた。

皆それぞれ複雑な思いを抱えながら、家族の契りの証に形だけの盃を交わした。

光男はそれが終わるとすぐにどこかへきえた。

志乃は部屋に戻ると、光行にどうしても聞いておきたい事があった。

「光行さん、そう言えるのも何年ぶりかしら。・・・・。どうしてもわからないことを聞きたいのです」

「何?」

「なんで今日なんですか?突然、私がここに来ることになって・・・」

それは早すぎるということだった。

「ああ、そのことか。それは一つはお福のことがあるからかかもしれない。私が寝込んで(怪我のために)いる間は親切だった。

しかしそれは過剰だった。あの人の性格かもしれないが、このまま志乃さんに誤解でも与えたらいけない。

一日も早く迎えて、はっきりさせるべきと判断した」

「やはり・・・そうでしたか。いえ、若い人が良ければ私は遠慮しますわ」

「いやいやそういう意味ではない。十分若いよ。世間の常識とは違う。やはり仕事もしているし、いつも緊張した神経をもっている。

わたしはあまりだらっとした人はきらいでね。つまり無神経な人は苦手なんだ。

でも、思いだすなあ、雪しぐれの日の出会いが・・・なかったら今ごろはどうなっていただろう・・志乃さん!」

「あら、志乃さんは今日からやめてくださいね。志乃ってよんでください」

「そうだったな、志乃!」

「あの時、地獄の中で仏さんにであったようでした。生きるか死ぬかのつらい時でした。子供たちもおかげで立派にそだって、光行さん

に感謝です」

志乃は再び遠い日の思い出をよみがえらせていた。二つ向こうの電車の駅の近くの藤見神社の思い出。

今年の春はここでお花見だった。あの時も光行は志乃の手をしっかり求めてくれた。

気持ちは昔と少しも変わらない。キクと光行が結婚することが分かった時も志乃は初恋の相手である光行の事をわすれなかった。

遠くの出来事のように、自分ではなすべきこともみつからなかったが、記憶の中では刻まれていた。

それを思えば今度こそ離れはしない。遠い道のりは帰って思いを強くしたのかもしれない。

二人はお互いを求めあっていたのだ。志乃は光行の腕のなかにあった。

甘美な時間が流れた。いままでの不幸せをきっと流してくれるかもしれない。

これからはもっと色々なことがあるかもしれない。五人の母親になるのだから。光行も心に誓っていた。

(必ず、幸せにしてみせる)と。

外には紅葉が風にまってまるでしぐれのようにふりそそいでいた。

続く













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