時代小説 雪しぐれ 21

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なぜ・・? 光行の心はもう離れていってしまつたのか。それとも何か他の原因があるのだろうか。先日の怪我の件も

何も知らされてはいない。

志乃の心の中では葛藤が渦巻いていた。もしかしたら自分はいなくてもいいのだろうか。そうだとすると、仕事も危ぶまれる。

どうしても光行の本心がしりたい。志乃は一人悶々と悩んでいた。

一方光行は日に日に傷が癒え、病院へも自分で行けるようになった。相変わらずお福は家の奥の方の仕事と、光行の面倒をみていた。

商売はやっと試作が終わり、新製品もでき順調にいっている。

サチも自分の出番とばかりにはりきっているし、性格も以前に比べて少しまるくなっている。 というか志乃には一目おいている。

一応ここのおかみさんになる人だと思って計算しているのか・・。計算だけはしっかりした女性だった。

志乃はここのおかみさんの座に座るという考えはなかった。もしかそういう立ち場になっても今までと変わりなく接したいと考えている。

光行の怪我も治り、本格的に商売ができるまでになった。その時光行は皆を集めて言った。

「皆さん、よくやってくれてありがとう。やっと病院にもいかなくてよいので明日からは本格的に商売ができる。

ただ、この腕がまだ上がりにくいので助けてもらう事はあるかもしれないのでよろしく頼みます」

サチはすかさずいった。

「旦那様、よかったですね。お気づかいはいりません。まだまだ無理はしないでください」

正造も「大丈夫です。俺も力仕事はまだまだ大丈夫です」と言った。

「それから皆が集まってくれているので、もうひとつ」

その言葉で誰も何も思い当たることはなかった。

「皆さんのおかげで、子供たちも大きくなりました。本当にありがたい事だと改めてお礼をいいます。夕べ突然のことだが

息子たちは私の将来の事を心配してくれた。長男は来年高等学校を卒業する。鉄道関係にいきたがっていて、就職も内定しているらしい。

光男はまだ学校だし、真ん中の光輝は親の私のあとを継いでくれるらしい」

皆は拍手した。だがまだ話はおわっていない。

「光輝は体がそんなに丈夫ではない。しかし最近は発作はほとんど起きていない。先生も大きく成れば治る人もいる、

とかはいわれている。一番将来を心配していたが後継ぎになってくれると聞いて安心した。今日から店を手伝うそうだ。

一から大変だが皆さん教えてやってください」

今までは家業は手伝ったこともなかったが、父の怪我を見てそう思ったのだろうか。

「それからもう一つ、聞いてください」

(もう一つ、何だろう)皆は光行の表情を伺がった。

「明日から、志乃さんにこの家にきてもらうことにした。私たちは今ではないが近く婚姻届けをだそうとおもっている」

それには暗黙の了解というか誰も異論はないようだった。・・・が。

三男の光男が一歩進み出た。

「お父さん、志乃さんが家に入るなら僕は家をでます」

「えっ?」

光行は驚きもあまりなかったが、反抗的な光男の視線を受け止めた。

それは使用人としてなら許せるが‥、といったところだろうとは思った。自分の母親に義理でもなることへの抵抗は

強かった。気持ちは分からないでもない。皆も一瞬、光男の顔を見た。

「学校はどうするんだ? 家を出るのは構わない。しかし、学校を出てからでも遅くはないぞ」

光行は、経済的に自立もしていない光男であるし、まだ学校がある。まさか、退学などしてほしくはない。学生の身分で

親の結婚に口をはさんでも自分はどうするのか。また母を思う気持ちもわかる。

今までから志乃には冷たい態度をとってきた光男だから、許さない気持ちはあるとおもう。

その場には冷たい空気が流れた。けれども志乃も一応最後に簡単な挨拶はした。

「不束者ではありますが、宜しくお願いします。一所懸命がんばります」

長男光太、と三男光男は挨拶が終わらないうちに席を立った。その場は冷ややかな雰囲気はただよっていた。

しかし、考えている暇もななく店の仕事に皆はいそしんだ。新しい商売は乾物店の強みをいかして、材料はふんだんにあり、

サチが得意の腕を振るって、おはぎをつくる。そのうち色々広げて行けばいいと思って、とりあえずは他所にないサービスなどを

考えた。3個以上買えばおまけが一個付いてくる、などやはり商売は最初の信用が大事なので知恵を絞った。

光輝は仕事は事務的なことを主にまかされていた。正造がその仕事もしていたので少しは楽になる。

今日からこの人数で光行の妻、後添いとしてやっていけるのか・・・。

志乃も皆の前で明らか様に反対されると衝撃を覚える。 が、これが現実かもしれない、とも思える。

「分かった。光男、これは家族の問題だ。あとで話はする。皆は仕事をはじめてください」

沈黙しながら皆はもくもくと働いた。

(せっかく夜は家族でささやかなお祝いをしようと用意してあったのに)光行はやはりけじめのために志乃に一応の挨拶をしてもらい、

はなやかな事は極力避けて、それでも家族となるのはやはりけじめは必要なことだ、と思いたとえ光男がいなくても

祝い膳をかこむこととした。

夕方店をしめてから、家族だけで引っ越しの手伝いをして、お祝いは少し遅くなったがはじめられた。

その日の店じまいを終えた光男は光行の用意した家族の顔合わせにも出ず、父にだけ挨拶をした。

「父さん、お世話になりました。今日から暫く友人の家に泊めてもらって、自分の行く先をさがすので心配しないでください」

「本当にいくのか、まあ、頭をひやしてもいいが、人に余り迷惑かけるな」

「・・・・」

続く