時代小説 雪しぐれ 20

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「どうされたのですか?」

「・・・・」

光行は答える元気もなかった。力なくどっとたおれこんでしまった。明らかに怪我か、でもどうして?どこで?

志乃は光行の重い体をかろうじて家の中に入れた。

驚いている場合ではない、一刻も早く手当をせねば。光行を寝かせると、台所に行って手拭いを用意し、縛れるところは縛り、

止血は肩なのでやりにくいところだった。それから寝ているお福を呼んだ。

寝ぼけ眼のお福は眼をこすりながら「今ごろなんですか?」と何かよくわからないようすである。

「大変、旦那様が怪我をされたようなので、とりあえず医者に往診に来てもらえるように行ってくるからここにいて」

「えっ、怪我?」

お福はまだわからないようでもあったが、詳しくも言っていられない。志乃はあわててかかりつけの近藤医院にかけこんだ。

勿論寝静まってしまっている。勝手口に行ってどんどんとたたいてみた。

「先生、おねがいします!」

偶然か、誰かがおきてきてくれた。志乃は必死だった。

顔を見せたのは先生の奥様であった。

「なにごとですか、いまごろ・・・」

「すみません。深夜に。実は今主人がけがをして帰ってきて、大量の出血なので来ていただけないでしょうか

お願いです! あまり出血すると生死にかかわるかと思いまして。お願いできる人もありませんので、先生におすがりするほかは・・

知り合いもいなくて・・」

志乃の言葉に生死、ときたので、しぶしぶとりついでくれた。

「わかりました。言ってみます」

その後、いきつけの先生という事で、仕方なくきてくれた。

ここは内科専門で外科医ではないが、田舎なので全般に見てくれることになっていた。

志乃は自分が言ったことにはっとした。主人ではまだないのだ。店主、あるいは旦那様というべきだった。が、病院の人がきいているだけ

だったのであえてこんな時言い直す必要もない、と判断した。

かなり気も動転していたのだ。そんなことは後で考えよう、と思った。

あわただしく先生は診察してくれて、かなりの傷なので縫わないといけないが近くの外科はないので、とりあえず止血して、注射をして

夜明けとともに病院に行くように言われた。連絡は先生がしてくださるとのこと。

志乃は一応ほっとはしたが、色々考えると眠れなかった。光行は注射のせいでうつらうつらとしている様子だった。

お福も代ります、とは言ってくれたが、商売の方も大事なので寝てもらい、明日はどうして光行を連れて行こうかと、思案していた。

タクシーはあるものの、そんな朝早くの時間に果たしていってくれるかどうか・・・。

ここからだと一駅半くらいはありそうだ。

とにかく朝は早く出勤してくれる正造を待って、近くのリアカーでも借りて、3人でいこう、店は光輝、お福にまかせて。

そして思い通りに病院まで連れていく事ができて、無事手術もしてくれた。

光行は誰に襲われて、どういう風に肩を切られたとかはいわなかった。今は新規の商売も始めようという、大事な時なのに。

が、何とか手術も無事終わり2日間の入院となった。

店も混乱していた。号令をかける肝心な人がいない。

サチは気丈なのでこの場をどうにかきりぬけた。自分のしなければなならない事は分かっていたので、皆一生懸命だった。

2日間は長く感じられたが、やっと光行も退院した。が、動けるような状態でもなかったが、ものが言えるのでまだましだった。

退院してからのある日、志乃は驚きの光景を目にしてしまった。

熱いいお茶でも、と志乃は台所にいき、光行の部屋にもっていくと、仲の良い笑い声?お福が来ていてたのしそうにわらっている!

志乃はお茶をおとしそうになった。(えっ!?なんだかたのしそう、光行さんが笑うのはひさしぶり・・・)

元々は明るいお福だったので、当然なのになぜか違和感を覚えた。

(私より、あの人の方がおにあいなのかしら?)

志乃は短い間に色々な思いが駆け巡った。

(どうして? そういえば、籍も入れるといいながらまだだし。私はみんなが忙しいのでせかすつもりはないけれど…

何か光行さんに考えでもあるのだろうか。確かにお福さんは若いし、美人だし、商売向きかもしれない。このままうっかりしていると

おいていかれるかもしれない。自分は自分の考えをあまり出せない、でも誰より光行さんの事をおもっている)

早くお茶をださないと・・・。

志乃は思い切って声をかけた。

「お茶がはいりましたよ」

この雰囲気でだまってははいれない。お福は急にたちあがった。

「ではおまかせしますね」

にっこり笑うお福には何の屈託もなさそうだ。

(やはり自分の思いすごしであるのか?)

続く