時代小説 雪しぐれ 10

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10

キクとともに帰宅した3人の息子は、始めはこの家の大変なことに驚いておとなしくしていたが、そのうち大人が忙しくて構ってもらえないと

志乃の息子たちと遊びだした。

「えいっ、やっ!」

二番目の息子光輝はやんちゃであった。大きな棒を持ち出し、振り回して勝、剛にせまってきていた。

兄弟はなるべくこの家の息子には勝ってはならない、と言われていたので抵抗せずに追い詰められていた。

けれども勝は勇敢にも一つ上の光輝に近寄り強引にその棒を奪った。

光輝はたちまち泣きだした。そこへ、偶然にもキクがとおりかかった。

「・・・?」

キクは棒を持った勝に驚いた。まるで息子がいじめられているのではないか?と。

勝ははっと我にかえり棒を離した。が、時すでにおそし、キクは勘違いしたまま急いで光輝のそばに寄った。

「大丈夫?怪我はないの?」

「うん、・・・」彼は悔し涙を目にうかべながら母に甘えた。

「まあ、本当に・・・。あの子は何をするんだろうね。乱暴な子だ。あとで𠮟ってやるからね」

「母さん、いいんだ!」

光輝は涙をぬぐうと母のそばを離れた。キクは何かわけのわからないくやしさにおそわれた。

しかし、今はそのことにかかわっていられない。シゲノの急逝のための忙しさがある。

この事はまた後でもいいと思った。

勝はその日、志乃の帰りを待って言った。

「そう・・。本当に勘違いなんだね。それじゃそんな風に奥様に言うわ。もう遊ばないようにね」

「おれ、自分から遊ぶっていうたわけでもないよ」

それは勝のいいわけであった。 その時裏口でなにか物音がした。(誰だろう)

志乃が仕事に戻ると、大勢の湯飲み茶わんが山のように積まれてあったので、何を考えている暇もなく洗いものにおわれた。

ちらっと見えたその人は、田島実であった。

(いやなひとが・・・)

どうやら志乃を探している風でもあったが、志乃は嫌な予感がした。

ようやくみつけた、といわんばかりに大きな目玉をぎょろつかせてちかよった。

「やあ、こんばんは」

妙になれなれしく言う。志乃は口もききたくないのに軽く頭をさげながらも、仕事の手はゆるめない。

田島に構っている暇もないほどいそがしい。

「大変だったよなあ。明日通夜らしい。火事もびっくりだが、シゲノさんも死ぬとはなあ」

「・・・」

田島に一々しゃべっていられないのに、無頓着な人だ、と思った。

できたら早くかえってほしい。むこうへいってほしい。

そのころ、ようやく山火事が下火になった、との連絡がはいっていた。

光行は正造にそういう事を任せて、自分は葬儀の段取りをしなければならない。

光行も父を亡くしていたが、ずいぶんと前だったので初めても同じであった。

光行がふと向こうをみると、裏の方で田島と志乃と話をしていた様子なので、妙に気になったが、次から次へといろいろ用事が起きて

気になりながらも行くことさえできなかった。

志乃のあまりにも無口さに閉口したのかとうとう、田島はあきらめて裏口からでていった。

サチは当然知っていて、すぐに志乃に言いにきた。

「何、あのいやらしい目つき、他人とあんまり油をうらないでね。いいつけるよ」

「はい、なかなか帰ってくれないので」

「何なの?あの人と、知り合い? あんなに親しそうに話をしていると、私は遠慮するけど噂になったらどうするの?

身持ちの悪い女ってことになるとここにはいられないよ」

意地悪な事を聞いてくる。

(身持ちの悪い女・・ただ向こうが勝手にしゃべっているだけで?)

志乃はサチの意地悪な言葉に少しはらがたったが、でもそれはいえないし、古株のサチにはなおさらいえない。

やっと洗い物が終わっていこうとすると、キクがやってきた。

「さっきの事、志乃さん、おわかりだろうけど、子ども同士とはいえ、棒をもって遊ぶなんて危ないよ。

大変な子がきたもんだ、よーく言ってきかせてね。今日は忙しくてこれ以上はいわないけど、後程きかせてもらいますよ」

キクは明らかな誤解をしていた。

しかし、志乃は仕事中であるし、忙しそうにしているキクに引き留めてまで言い訳もできない。

次から次へと問題は起きる。

その日はお通夜が終わっても、遅くまで故人をしのんで話はたえなかった。

「やっと山火事も収まったらしい、良かったのう、光行さん」

親戚の人もそういう知らせで少しはほっとした。

「はい、一時はどうなるかと思いましたが・・・しかし相当沢山燃えたらしいです」

「まあ、自分が消すわけにもいかんし、こればっかしは消防も大変なことだ。亡くなった太一(シゲノのつれあい)おとっつぁんも

さぞかしくやしがっているであろうなあ」

「まあ、しかたがないですね。明日またどんな具合かみてきます」

「明日は葬式じゃ、光行さんも無理せん方がええ」

自分より年上の人が当然多く、シゲノ夫婦のっ付き合いの広さは多大であったため、光行も葬式は言葉ひとつにも気をつかう。

キクも同じで混乱するほどである。

やっと落ち着きをとりもどしたのは、初七日を迎えるころであった。

キクは、サチに自分が里に帰っている間の志乃の行動を、見ていてくれるようにサチにたのんでおいた。

「大丈夫でした。奥様、旦那様にちかよったこともありません。それより、志乃さんの子供は悪いですね~」

サチは自分のつくったおはぎの事はあまりいいたくなかったが、イタズラされたことはまだ根にもっていた。

「ありがとう、またの機会にいいます」

キクは葬儀のために言う機会をのがしてしまったが、必ずまた何か起きるの違いないと思っていた。

続く
















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この記事へのコメント

2020年05月12日 21:50
 その8
激動のくだりですね。
サチの様な仕事に真面目に取り組む人が、本当に重宝されていた時代でしょうね。
そんな中、心の優しさで切り込む、秋月さんだと思います。
昔は、乾燥・気温・風の条件が重なると自然発火の山火事が多かったそうです。
枝打ちし、雑木や低木を伐採して樹間を整える。
広い林道を造って手入しやすく、樹木を運びやすくする。
これがポイントでした。
市有地の山だとこれをするのが大変で、
安価な木材が海外から入って来るとやってられない!
となります。
山火事を村の鍛冶屋と繋げ、シゲノさんが倒れ右往左往する・・。
続きを早く読みたくなる設定です。

 その9
昔の恋心と大奥様が倒れた事の兼ね合いで、気持の揺れが感じられます。
母の死、代々の財産としていた山の火事が重なり、光行は男泣き。
ドラマチックです。

 その10
複雑に絡み合って、当時の人間模様が想像できますが、
子供はこうあるべき、主従関係はこうあるべき、
みたいなものが描かれています。
重いものが感じられ、明るい展開を希望しています。
でも、リアルに描くとこうなんだろうなと思います。
秋月夕香~アルクノさんへ
2020年05月13日 07:12
おはようございます。コメントありがとうございます。

その時代はまだ特に女性は重い鎖のような様なものにつながれた何とも言えない封建的な制度や男尊女卑の思考が多かった男性優位の世の中でした。なので、一人の女性の運命を変えるのは男性の考え次第だったかもしれません。
だからどろどろしているかもしれません。

時代の女性のどろどろと忌まわしいくらいの苦しみは
皆かかかえていたと思います。そういうのを書いてみたかった、というのもあります。

現代でも男性中心で女性を軽視する人もたくさんいます。
そして私が実際聞いた話でもある<乾物屋のおじいさんが亡くなられたことは山火事のショックでした>
私達より2世代くらい前のはなしですが。
私が小さい頃聞いた話でもあります。

私の父も脳出血で亡くなっていますが、私の時代でも
医者のすることは限られていて、家で往診をしてもてあてもなく。入院しても何も検査があるわけでもありませんでした。そういう時代でした。

私の根本は男尊女卑がだいきらい、ということです。
本当の自由を求めて生きてきたようなものです。
感想をありがとうございます。もうじき入口がみえてきます。