時代小説 雪しぐれ 12

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12
次の日、警察、消防の人が山本商店を訪れ、店主に今回の報告があった。鍛冶屋は作業所が消失したが、人的被害はなく

まだよかった旨、そして山火事の原因や犯人などは不明、焼失面積もこれから調べる、との報告でなんともたよりないものであった。

そしてシゲノが亡くなったことへの弔意ものべた。

光行は人に恨まれるようなことはしていない、とこれだけは強調しておいた。

いまさらもしかして山火事がつけ火であったとしても、自然発火であったとしても今更焼けてしまったことは戻らない。

母の死も誘発してしまったが、これも誰のせいでもない。年齢のせいもあるのでこれは母の運命なのかもしれないと考えることにした。

キクもまた、そんなつらそうな光行を見守るだけで、最近の冷たさはやはり色々な出来事のせいかもしれないとも考えた。

そんな中、四十九日の法事も終わり、一応の喪が明けたことになる。光行は皆を集めてその労をねぎらった。

「皆、大変な中よくやってくれた、ありがとう御礼をいいます。今年の春の花見会も流れてしまって、もうしわけなくおもっています。

そこで、母の事でもご苦労かけたが、この10日後にお花見の代わりに皆で出かけようと思う。慰労会といった方がいいだろう。

行先は今内緒だ。おたのしみだが、そんなに遠くでもない。これからも山本商店をよろしくたのみます」

いつものように穏やかな口調で丁寧に光行は挨拶をした。

志乃もサチも正造も、良子もあやも神妙な顔で聞いたが、しかし喜びはかくせなかった。

正造は「えっ、そうなんですか。今年は留守番は?」

「留守番?それはいらんよ。皆行けばいい。いつも婆さんがいたが、もういないし、鍵をかけて行けばいい」

志乃は言われれば残ってもいいとは思っていたが、口には出さなかった。

何処へ行きたいという事もなかったが、子供たちは何処へも連れていってやれないし、そんな余裕もない。

だから心の中ではほっとしていた。

そんな中。久しぶりに使用人も家族も藤やつつじを見に行く予定なのに、キクの実家では母親が具合がわるくなり、

キクは実家にしばらく帰ることになってしまった。

これはこれでこういう回り合わせになったのでお花見は遅くにはできないので、仕方がないと判断した。

キクも折角楽しみにはしていたが母親も放置できないので皆出行ってくれるように言った。

10日後、やはりキクの母親は具合もよくなく、全員参加は無理なので光行はお花見を決行することにした。

当日。仕出し屋さんにお弁当をたのみ受け取り、皆は電車に乗って2つ向こうの駅に着いた。

志乃はひょっとしたら、という思いに駆られていた。


<それは、もしかしたらあの思い出の藤美神社ではないか。

駅をおりるとすぐにその神社はある。このあたりではかなり大きな神社で大きな古い見事な藤やつつじが植えられている。

志乃の思い出の場所とは、光行と出会って初めて二人きりの時間をすごした場所で、忘れるわけもない。

神社の裏は誰もいない静かでひっそりとしていた。ここで抱きしめられて思いをつげられた秘密の場所である。

それがどれだけ桜が散るようにはかない事っであったのか、志乃は想像もしなかった。

そのころ、光行の縁談はすすめられていて、光行の思いとは違う方向に動いていてキクとの縁談は仲人の熱心な勧めですすみ、

周りで勝手に成就していった。光行はにっちもさっちもいかなくなり、仕方なく見合いをした。

母シゲノもなぜか家柄が気にいって嫁側の親ものりきであった。

がっしりした体格、やさしい性格、家柄、どれをとっても反対する理由もないほどの好青年であったので

キクにもこの縁談を逃したらそんなにいい人はいない、といってその気にさせた。

その現実を志乃にどう話しをしたらよいか、光行はやせるほど悩んだがどうすることもできなかった。

本当に結婚したい相手は志乃であったのに。結果はやはり周囲に飲み込まれて行ってしまった、ということになる。

光行は、大きな悔いを残す事になってしまったのだ。>


幸か不幸か、キクがこられなくなったので志乃は複雑な気持ちであった。しかし今は二人ではなく従業員や子供たちも5人いる。

皆はうきうきとしてうれしそうであった。

志乃も昔を思い出していたが、ふと、気がつくと光行がお酒を注いでまわっていた。高級な仕出し屋の弁当は、滅多に食べられる

ものでもないので皆とても喜んだ。普段の食事は素質で、使用人と店主の家族は別に食事をする。使用人は暗い台所の

隅にすわって、ゆっくりもできない。

皆の一年に一回の至極の時間である。お酒は志乃はのめなかった。けれども順番に注いでまわっている光行はついに

志乃の前にきた。

「ご苦労様、今日は思い切りの無礼講だからたのしんでください。すこしでいいからこれを・・」

初めて会ったような気分でドキドキした。真正面に顔を見られるのはんなんだか気はずかしい。が、お互いの14年間を

たしかめあうように、光行の瞳はやさしかった。

「どお?もうなれましたか?」

「はい・・・ありがとうございます」

一杯言いたいい事もあるが、それを口にすることはない。

そんな志乃のそばで、二人の兄弟は着物の端をつかんで何かをせがんでいた。 それを見た光行は

「あっそうか。おじちゃんが連れていってあげる」

それは、屋台の金魚釣りに行きたくてうずうずしていたのだった。

あっという間に光行は二人の手を取って人ごみにきえてしまった。志乃は慌てて3人を追った。

そして山本家の3人も一緒になって、金魚釣りの水色の長方形の入れ物の周りにいた。

赤い金魚は沢山泳いでいた。皆夢中になっている。こういう子供の顔はやはり最近見たことはない志乃である。

光行は自分の子供から離れて、勝と剛史の横にいた。そして偶然、光行の隣が開くと、志乃を手招きしてよんだ。

志乃は一瞬のまよいがあったが、断らなかった。

今日はキクもいないし、光行も解放されていてあかるかった。

暫く皆は金魚釣りに興じていたが、光行はこともあろうに志乃の手をそっとさがして伸ばしてきて、その手にふれた。

(えっ!?)

志乃は体中に電流が走るような衝撃をおぼえた。おどろきでもあった。けれども光行の心中は測りかねていた。

続く
















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この記事へのコメント

2020年05月21日 11:45
ちょっと危ない展開になってきましたね。
はてさて、どうなるんでしょうか。

私の所にもアベノマスク届きました。
ずいぶん世の不評を買ったマスクですが、
マスク自体に罪は無いし、私たちの税金が
使われてる訳ですから、無駄にしないよう、
寄付する先をネットで探しています。
秋月夕香~yasuhikoさんへ
2020年05月22日 06:28
おはようございます。いつも読んでいただいてありがとうございます。
マスク~寄付~そうですね。それもいいかもしれません。
私は最近、マスク造りにハマってしまい、毎日用もないのに

ファッションマスク、とでもいいましょうか。白は勿論ですが、お花模様に涼しい色のマスクを増産?しています。

手縫いなので知っている人にしかあげられません。でも洗濯にも耐えられるし、十分機能していて、買い置きのマスクは外出用に捨てられるようにしています。

そしてこれ以上買う必要もなく、1月半ばに買ったので
出費はありません。(少)

今いいマスクもありますが、1500円くらいはしますね。
夏になればマスクはくるしいですね。まして散歩のときや運動すればしにそうになります。・・トホホ・・・。

コメントありがとうございました。
2020年05月22日 07:45
その11
最大の嫌がらせが見えてきました。
ドロドロとした当時の世相が見えてきます。
志乃を疎ましく思う輩が壊したことが見え見えですが、
大正ロマンで無く、大正差別でしょうか。
差別する事で、自分が優位に立とうとする低レベルな性根が見えてきますね。
でもここから光行との繋がりが深まるような気がします。

その12
その繋がりは華やかな慰労会でしたか。
家柄での結婚、昔は普通で、今では格差婚がもてはやされます。
家を壊したのはだれか?
キクとは別れるのか?
これが繋がっていくような気がします。
紆余曲折があるでしょうが、希望の光が見えてきそうです。

今マスクの手作りが流行っていますね。
秋月さんのもお洒落でいいと思います。
アベノマスク、此方には全然届きませんが、
その寄付は私も考えています。
数量は多い方がいいので、自治会で提案しようと思っています。
秋月夕香~アルクノさんへ
2020年05月22日 08:26
おはようございます。コメントありがとうございます。

お察しの通りです。この時代は明るい光の差し込んでいる一方で、昔の気質も残されていて、人々の心は決しておちついてはいません。外国の人の明るい文化にくらべると、必死に大陸文化についていきたい日本ではないかと思います。

それに恋愛感情や、人間の感情的な思いは今も昔もあまり変わらなく、思った分その反動が大きいかもしれません。

これがきっかけではあってももっと奇想天外な事もあります。昔はあり得たことですが、現代はないことです。
いつも読んでいただき、感想をありがとうございます。
ジュン
2020年05月25日 14:38
お忙しいのですか
こちらも解除になりそうですが
気分は軽くなりませんが
少しお出かけしてみたくなりました
秋月夕香~ジュンさんへ
2020年05月25日 17:54
こんにちは。少し心境の変化というか‥色々ありましてご無沙汰すみません。

別にいそがしいというのではありません。
相変わらずマスクを作ったり、色々していますし、昨日は久しぶりにおでかけしました。

コメントありがとうございます。